野茂英雄引退について語ろう!

いつかこういう日は来るものだけど、ロイヤルズから戦力外通告された後、日本に帰国してからもトレーニングを続けていた野茂英雄投手が、今になって引退宣言するとは思っていなかった。とは言えメジャーリーグには、ロジャー・クレメンスのように引退を撤回する選手も多いので、年末には再びカリビアンリーグに行くとか渡米する可能性がないでも無いかな。しかし初めて引退の決意を聞いてしまったのだ。何となく、ココロのどこかに大きな穴が空いてしまったような気分だ。

〈ホクレア〉を知るまで、僕にとって雑誌を作る動機となり続けたのが野茂英雄だった。今になって思えば、双方に共通するものは「道を拓く」ということだった。日本人メジャーリーガーとしてはもちろん、近鉄バファローズ入団当初から何もかも新しいものずくめの投手だったのだ。何よりも、今でこそ当たり前になった投手のウエイトトレーニングを、日本で最初に始めたのが野茂だった。

それまで、投手はボールより重いものを持ってはいけない、と言われていたらしい。にも関わらず、周囲の視線には見向きもせず、無意味な走り込みには加わらず、チューブによる軽い負荷で腕を内外旋される見慣れないトレーニングを始めた。今でこそ多くの人が知ることになったインナーマッスルという言葉は、このトレーニングを通じて、当時野茂のコンディショニングコーチであった立花龍司さんが広めたものだ。

古いタイプの指導者は、どう見ても不合理なフォームを変えさせようとした。しかし「あれこそ野茂の個性なのだから」と周囲の反対を押し切って変えさせなかったのが、当時近鉄バファローズの監督を務めていた仰木彬監督だった。「そのかわり、ヤツのカラダにはかなりのムリがかかると思うから、その『新しいトレーニング』でヤツを守ってやってくれ」と、立花コーチにすべてを託した。

当時の立花さんは、プロ野球選手経験の無い新人コーチに過ぎなかったにも関わらず、それほどの大役を任されてしまう。仰木監督という人も、破格に太っ腹な指導者だったんだなぁ、と思う。すでにご存じの人も多いとは思うけど、イチローのバッティングフォームを変えさせなかったのも、近鉄からオリックスに移った仰木監督なのだ。ついでに言うと鈴木一朗という名前を「イチロー」に変えたのも仰木監督。この人は歴史に残る名プロデューサーでもあったというわけだ。

以降、野茂のトレーニングは「メジャー流トレーニング」と呼ばれ、徐々にプロ野球界にも浸透して行った。一方の野茂は新人ながら最多勝投手に、そしてそのまま4年連続で最多勝の座を守ることになる。この頃、メジャーリーグファンの多かった近鉄バファローズのロッカールームでは、毎晩のようにメジャーの試合のビデオが流れていた。すでに日本のプロ球界では頂点に上り詰めていた野茂英雄は、ビデオを見ながら「クレメンスのまっすぐに比べて、僕のまっすぐなんてまだまだ子どもじゃないですか」と立花コーチに語っていたという。

強烈な反骨精神とともに日本のプロ球界で戦い続けてきた野茂英雄ではあったけれど、仰木彬監督がチームを離れ、「草魂」の鈴木啓示監督の下ではうまく行くはずもなく、対西武戦で十数回にも渡る不合理な連投を強いられたことを契機に退団を決意。それがあのメジャーデビューへと繋がって行ったのだった。今でこそ「日本人メジャーリーガーの道を拓いた」と言われるけれど、あの時の野茂は、ほとんど日本を追われるようにアメリカに出て行ったし、多くのメディアは成功など期待していなかったはずだ。しかしデビュー戦では勝ち星こそつかなかったけど7回3分の2を投げて11奪三振。その半年後には新人ながらオールスターに出場し、メディアは一斉に手のひらを返したのだ。

あの頃のニュースを観ながら、僕は居ても立ってもいられなくなり、「あの編集部」に異動を申し出た。それで雑誌の上には新種のトレーニングを紹介するページが多くなって行ったのだけど、売れるようになったんだからいいよね。ついでに言うと、あの頃は〈ホクレア〉のようなテーマに出会うとは思ってもいなかった。ジンセーとは不思議なものですね。野茂英雄と〈ホクレア〉が繋がってしまうんだから。でも、どちらも「道を拓くもの」としては共通している。もともと僕はそういうテーマが好きだったのかもしれないな、と、今になって思う。

僕がこれまで取材で会ったアスリートは、軽く100人を越える。だからなのか、「そんなあなたはいったい誰のファンなのですか?」と聞かれることが多い。もちろん言うまでもなく「野茂英雄」と答えている。子どもの頃は王貞治で、少しオトナになった頃にはアイルトン・セナと答えていたもんだけど、今ではどう考えても野茂なのだ。イチローは見ていて楽しいけど、なぜかシンパシーが湧かない。松井秀喜はホームランを打ってこそナンボの選手だと思う。となると今の日本人メジャーリーガーに魅力のある選手が見あたらないんだよなぁ。しいてあげれば松井稼頭央かな。

最後に蛇足ながら、野茂英雄追っかけ時代の仕事も相変わらず続いています。ちなみに故障した僕の肩のリハビリを担当してくれているのは、今でも野茂のコンディショニングを担当しているパーソナルトレーナーなのだ。これで治らなければバチが当たるというもんですね。
by west2723 | 2008-07-18 03:29 | スポーツ


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