夢と現実の分水嶺

内野加奈子さんのトークイベントに出かけた。内野さんに会うのは、たしか去年の7月29日、東京海洋大学でのシンポジウム以来だ。今回の帰国は本のプロモーションで忙しいはずなので慌てて連絡は取らなかったんだけど、会えばいつもの通りの世間話が始まる。それにしても何だね。内野さんは以前にも増して「眼力」が出てきたな、と思った。「そんなにキレイな眼で、こんなオレを見ないでくれよ」ってビビるくらいのパワーだった。

帰国してから1ヶ月ほどの間、内野さんはホントにこまめに、かつ精力的に、北は北海道から南は愛媛まで、〈ホクレア〉来航1年後のために奔走しているという。迷うこと無く「次のはじまり」を実践しているのだ。科学博物館に集まった20名ほどの熱心なお客さんの質問に対しても、真摯に考え、言葉を選び、丁寧に答えてくれていた。航海中の水や食料のこと、女性であるが故にカヌーの上で思うこと、クルーであるための資質、などなど、明らかに「最近本気で〈ホクレア〉に興味を持ってくれたんだな」と思しきお客さんの質問に対して、実に的確な回答を聞かせてくれた。

水や食料については「40日分積んでいる」こと。そして「航海中は何があるかわからないので、実際にはこれが30日分くらい」であること。女性であるが故に、という問いに対しては「私自身も最初は出過ぎたことをしてはいけないのか、と遠慮したこともあったけど、ナイノアに『最初の航海士は女性だったんだ』という話を聞かされて自信を持っていった」こと。クルーの資質については「人にはそれぞれ役割があり、それをいち早く理解し、着実に実践できること。だからこそ、誰にでもクルーになれる資質はある」ということ。

「ただし、海の上での喧嘩は自殺行為だけど、誰が喧嘩っ早いかなんて事前にわかりませんからね」というような、当たり前のようでいて、示唆に富んだ言葉が続いた。その間、質問してくれた人たちの「いい感じ」での素朴な疑問に、僕は〈ホクレア〉という名前が確実に多くの人の間に浸透し始めていることを感じていた。あの場に集まった人たちと、できれば車座になって酒でも酌み交わしたい気分だった。どうか皆さんこれからも、ココロの片隅に〈ホクレア〉を浮かべておいてくださいね。

とても暑い1日だったので、終了後は軽い打ち上げに出かけた。ウッチーノさんと博物館やプラネタリウムの関係者に加えて、ウッダさんと僕を加えたメンバー。〈ホクレア〉がらみの集まりには、このようなアカデミックな集まりと、サーファーやパドラーによる賑やかな集まりという2通りの集まりがあって、こんな両極端が存在することも〈ホクレア〉の特徴だと思っている。アカデミック編では知らないことが多いので、僕はもっぱら聞き役に回る。内野さんも謙虚な人柄のせいか、聞き役に回っていることが多い。久しぶりにこのメンバーで集まると〈ホクレア〉以外の話で盛り上がることも多いんだけど、このような話の中から、何か次の展開が生まれてくるのかもしれない。

そして今日、早朝5時から、科学博物館にも来場した『Aloha! 未来』の吉田清継さんと、〈ホクレア〉とは全く180度違うタイプのロケに出ていた。クルマの広告で、しかも女性誌の仕事だった。この仕事を始めるにあたり「誰か撮影が速くて腕のいいビデオカメラマン知らない?」と周りに声をかけていたら、偶然にも信頼する人から吉田さんを紹介されたのだった。これも何かの巡り合わせなんだろうな。つまりこれは、今はキミたち、全然違う分野で腕を磨いておきなさい、という「何かの声」なのだ。こういうことの後には、決まって何かが起こる。いったい何が始まるのだろう?

だからこの仕事は楽しい。あまりに現実的な仕事を通じて何かを学びながら、いずれみんな、また一つにまとまるんだろうという予感がある。内野さんも忙しい、内田さんも西村さんも、みんな現実に向き合って忙しい。でもこの山は、いつか越えられるのだ。だから今は分水嶺のこちら側で、それぞれのスキルを磨いておこうと思うのみ。頑張りましょう。
by west2723 | 2008-07-07 21:30 | 陸での話


<< 『Live Simpley』っ... タコ大発生 >>