カヌーの上で

ようやく本を2〜3冊読める週末がやってきて、雨なので出かける気にもならず、内野さんの本も一気に読むことができた。何よりも、こういう読みやすい文章ってありがたいものです。これほどの内容、これほどの体験をまとめるとなると、プロのライターさんでも修飾語過多に陥ってしまい、結果的に「何も伝わらない」文章になってしまうことが多い。ところが内野さんの文章って天性なんだろうね、すべてのフレーズが直球でわかりやすい。わかりやすい上に、不意に詩的な言葉を使ったりするのでココロに響くんだと思う。

ところでこの本、改めて読み直してみるとパラオ〜沖縄間の話にとてもワクワクする。動力のないカヌーで進み、あるいは停滞する時の海のようす、空や風のようす、航海術のようす、そしてナイノアの判断。これまで幾度となく話には聞いていたけれど、こうして文章になってみると伝わってくるものがまるで違う。やはり表現の手段として、印刷物の力はスゴイと再認識できます。
ところで内容がリアルなだけにさらに際だつのは、内野さんの意外にあっけらかんとしたようすなのだ。たとえば無風帯でカヌーが停滞してしまい、ナイノアはじめ全員が眠りについた夜に、ひとりでデッキで空を眺めている、なんてあたり。

普通はこんな時、ブキミで仕方ないんじゃないかと思うけど、どうなんだろう? 動力も機器も備えた大型クルーザーの上でひとり、というんなら単なるロマンチックな話だけど、動力を持たない小さなカヌーが、どこにいるのかもわからない深夜の大海原で停滞した状態だからね。僕だったら心細くて泣いてしまうかさっさと寝てしまうだろう。さらには、ところどころに「寝るのが惜しくてデッキの上で過ごした」とあるけれど、1日4時間を2回、計8時間も立ったままステアリングを握るなんていう重労働をした後に、よくもまあ、そんなココロの余裕があるもんだなぁ、とも思う。

そんなこんなで、僕も言葉では伝統航海術というものを理解していたつもりだったけど、この本から航海の現場のようすを想像すると、とても並大抵の体力や精神力ではできないことがわかる。そんな過酷な状況を、少なくとも文章の上では気にも留めないようすの内野加奈子さんという人は、見た目にはホントに普通の女性だけど、やはりどこか突き抜けちゃっているというか、超人的な人なんだろうなぁと思う。やはり航海カヌーという乗り物には、誰でも乗れるというわけではないのだ。陸上では穏やかな〈ホクレア・クルー〉だけど、ひとたび大海原に出てしまうと、普段は眠っている超人的な資質が現れるのかもしれない。もちろん、訓練で作られる後天的な資質もあるんだろうけど。
by west2723 | 2008-06-30 20:03 | ホクレア


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