ワカッテナイのかポップなのか?

海洋大のシンポジウムに集まった人たちを眺めながら、壇上の人も客席に集まった人たちも、みんな穏やかでいい雰囲気だなぁ、と思っていた。集まった顔ぶれは誰もが言う通り多様であり、それぞれがお互いを補完しながらモノゴトを進めて行く、創造的でありながらリラックスした雰囲気。学者さんがいて映画監督がいてアスリートがいてミュージシャンがいて雑誌編集者がいて旅行ライターがいてサイエンスライターがいてハワイ州観光局の人たちがいて子どもたちがいて体育の先生がいてハワイの有名な伝統航海士がいて、そして全員が同じテーマに沸き、同じ頂上を目指している。このような集まりを残してくれただけでも、〈ホクレア〉の日本航海は成功だったと思う。

〈ホクレア〉が日本に来るかもしれない、と聞いたのは5年くらい前だったかな? その頃、僕の回りに〈ホクレア〉を知る人などいなかった。みんなホノルルマラソンやサーフィンなどなどで年中ハワイに行っているのに、なぜ知らないんだろう? 思えば不思議なことだ。僕たちに与えられ、それがすべてだと思っている情報なんて、いかに偏ったものだったのか思い知らされたもんだった。

しかしまぁとにかく、日本の人たちに〈ホクレア〉の存在を知らせることから始めなくてはいけない。せっかく日本までやって来たのに、港で誰も出迎えていないんじゃマズイでしょう。もちろん今となってはこんな心配は杞憂だったわけで、僕あたりが何か行動を起こすまでもなく各寄港地とも想像をはるかに超えた、〈ホクレア・クルー〉でさえ驚くような歓迎があったわけだけど。

とにかく、その時の僕にできることは雑誌を出すことだった。テーマは「ハワイからこんな船が来るらしいんだけど、みんなどう思う?」というもの。スタッフはコンパクトに、たったの4名。日本からハワイに行くのは僕と、自称「海洋ジャーナリスト」氏の計2名、写真はハワイ在住の有名な写真家にお願いし、日本に長いこと住んでいたレジェンドサーファーにコーディネーションを頼む、という構成。身軽じゃないとこんな取材はムリだな、と思ったと同時に、あまりカネをかけられないという事情もあった。

同時に、僕はひとつのルールを作った。それは、この話をいわゆる「ハワイ通」だけのものにしたくないということだ。知り合いの中には「ハワイ通」やらフラの先生もいたりするんだけど、彼らにとってのハワイはすでに完結してしまっているのだ。「マナ」だの「オハナ」だのといきなり言われてもワケわかんないし、やがて「カヌーのこと考える前にフラの勉強した方がいいよ」、な〜んて話になってしまう。いちいち勉強している間に、〈ホクレア〉は日本に来ちゃうじゃん。

ワカッテナイ、という批判は、雑誌を作る前でも出した後でも、ずっと聞くことになった。「〜〜の本、読んでないわけ?」「オマエ、海のことワカッテナイ」「セイリングのこと、ワカッテナイ」「ハワイよりも、ミクロネシアの勉強が先だろう?」「航海カヌーのこと、もしかして全然ワカッテナイわけ?」もう、うんざりだった。だったらワカッテルあなたは今、いったい何をしているわけ?申し訳ないけど、彼らとの議論に時間を費やす余裕なんてなかった。

そんなこんなで、実は雑誌の取材で訪れたハワイは、初めてのハワイだったのだ。ワカッテナイのは当然だった。しかしとにかく始めなくてはならなかった。そんなヤツが、当時はまだ怪しいハワイアンとしか思っていなかったタイガー・エスペリ氏と一緒に、いちばんディープなハワイの中に入ってしまうなんて無謀といえば無謀だった。出てくるヤツ出てくるヤツ、み〜んな曙みたいに怖い顔してるんだから。

もちろん、怖い顔はしていても、いちどうち解ければホントにいいヤツばかりだった。僕は流暢な英語なんて使えないから、向こうはかえって一生懸命話してくれる。メシも食べさせてくれるしカヌーにも乗せてくれる。そしてある時ふと気づくんだけど、彼らは誰もが寡黙で礼儀正しい。たとえ貧しくても、仲間を家族を大切にする。挨拶がしっかりしている。なあんだ、僕が子どもの頃に見ていた日本のオトナと同じじゃないか。オトナとは、大きく強く、知恵があって優しい人たちだった。

ハワイがわかれば日本がわかる。きっとそうだ。〈ホクレア〉が日本に来ると言うことは、すなわち日本人が日本について考える機会になる。僕は確信しました。そして思ったわけです。この話は、まだハワイのことも〈ホクレア〉のことも全く知らないけれど、知ったら確実に動き出す人のために紹介するのだ。とは言えいちいち理由など説明しなくてもわかる人たちがいい。つまり、音楽やファッションを理解するように、直感的に〈ホクレア〉のメッセージを理解してくれる、ポップな人たちに向けて紹介するのだ。(続く)
by west2723 | 2007-09-02 22:58 | 陸での話


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