雨上がりの夜空に

シンポジウムも終わっちゃったね。これでいよいよ〈ホクレア〉がハワイに帰ったと思った。と言うよりも、ホントに日本に来ていたのかな? と思った。僕が沖縄の沖で見たカヌーは、ホントに〈ホクレア〉だったのかな? 七里ヶ浜で多くのサーファーに囲まれていたカヌーは、ホントに〈ホクレア〉だったのかな? 時間が経つに連れ、日本航海を総括するどころか、あれは夢だったんじゃないかと思い始めている。あれを事実と認めることによって、いよいよ自分たちの航海を始めなくてはならない。それがちょいと怖いのよ。あなたには目指すべき島が見えていますか?

シンポジウム、良かった。教育関係の方々が開いたイベントだったので、僕はただ話を聞くのみだったけど、雑誌の現場とは全く違う視点で語られる〈ホクレア〉はとても新鮮だった。「〈ホクレア〉は教室である」とはよく聞く言葉だけど、「教室が〈ホクレア〉であってほしい」という教員の方の言葉に、僕の目からウロコが落ちた。カヌー=島=地球という図式に、新たに「教室」を加えてみると、このシンポジウムが訴えていたテーマが見えてくる。

「誰も行こうとしない航路を〈ホクレア〉は伝統航海術でやって来たんです。やはり彼らはホンモノなのです」「我々の生活で使われるものの多くが船で運ばれてきます。しかし、船乗りを目指す若者は少ない。となると、近い将来、オイルショックのようなものが頻繁にやって来ることでしょう」「〈ホクレア〉に関わると、理科でも社会でも外国語でも体育でも、あらゆる科目の先生方と協力し合える。この多様性が、非常に示唆に富んでいる」「日本航海が成功だったかどうかはまだわからないな。ここに集まった子どもたちが将来も同じ夢を持ち続けていてくれれば、成功だと思う」

篠遠喜彦先生は締めの言葉で「日本から直接ハワイに行った人たちもいるはずだ」と、自由なイメージを語ってくれた。それを証明するのは先生ご自身なのか、あるいは次の世代なのか。いずれにしても、学問だって勇気を持って誰も行ったことのない航路を行くべきだというメッセージが伝わってくる。あれはビショップ博物館から国立科学博物館へのエールだったのかもしれない。ガクモンとは、非常にクリエイティブなものなんだなぁと思った。カッコいいです、篠遠先生。

ヤップ〜沖縄間のようすをスライドショーで語った内野かなこさんの仕切りも見事でしたね。「こんな時にナビゲーターは何を考えているのか、隣のナイノアさんに聞いてみましょう」というような掛け合いは、ライブじゃないと聞くことができないものだった。「おいおい、そこでナイノアさんにマイクを向けるなんて無謀だろう、話が終わらなくなっても知らないぞ」とは思うけれど、お陰でナイノアさんは本当にカヌーの上にいるような顔で語り始める。今まで聞いたことのない話ばかりだった。でもごめんなさい、非常に長くなるので今は紹介できません。いずれにしても嵐のシーンの話でした。そしてその時、越中島上空ではホンモノの雷が鳴り始めるというオマケまでついてきました。

シンポジウム終了と共にナイノアさんはハワイに帰らなくてはならず、懇親会の前に慌ただしくお見送り。一瞬止んでいた雨も、ナイノアが帰ると共に激しく降り始めた。あの人は正真正銘の晴れ男だと思う。関東地方は〈ホクレア〉が帰った翌日に梅雨に入ったもんだった。懇親会が終わっても雨は止まず、スタッフの多くは思い思いの場所で雨宿りを始める。荒木タクジさんは今日中に沖縄に戻りたいとのことで、出迎えのクルマで会場を後にした。内野かなこさんは、静かになった会場の廊下で真剣にアンケートに目を通している。このブログの常連さんは、喫煙所で濡れながらミクロネシアの話で盛り上がっている。

大島商船高専の藤井先生は、昨日飲み残した焼酎が気になっているご様子だ。「もう濡れてもええから、行こうや」ということで、僕は昨夜と同じオトコくさい顔ぶれで、昨夜と同じ門前仲町の居酒屋に向かった。これで明日も二日酔いかよ〜、と弱気な気分になるけれど、藤井先生のオトコっぷりにやられて、つき合ってしまうのだった。「あの〈ホクレア〉いうのはホンモノやぞ」。それにしても僕が知り合う瀬戸内海の人って、どうしてみんなダミ声なんだろう?

あくまでも居酒屋レベルでの取材によると、突然発表された〈ホクレア〉の世界1周は2年がかりになるらしい。寄港地はハワイ〜ニュージーランド〜オーストラリアを左回りに周航〜インド洋の島々〜インド〜紅海〜スエズ運河〜地中海〜アフリカはたぶんダカール〜ブラジル〜南米大陸を左回りにパナマ運河〜カリフォルニア〜ハワイ。日本には寄れない。「地中海はいきなり荒れるから、喜望峰を回った方がええんちゃうか」というのが藤井先生の意見。いずれにしても、〈ホクレア号〉はまだまだ西に向かうのだ。

そんな話で盛り上がっているうちに、Uddhaさんは終電を迎える。僕の家は東京駅に近いので、Uddhaさんをタクシーで送って帰ることにした。気づいてみると、雨は止んでいた。
「もう、これでホントに終わっちゃいましたねぇ」「何〜に言ってるの。これからが始まりだって、さっきまで言ってたばかりじゃん」「でもねぇ、日本航海は終わっちゃったんですよねぇ」
ほら、船で陸を離れても、しばらく陸が見えているでしょう? これまではあんな感じだったんだ。〈ホクレア〉が帰っても、しばらく余韻は残っていた。しかし、シンポジウムが終わって、いよいよ陸は見えなくなった。今はそんな気分なのだ。
by west2723 | 2007-07-30 11:40 | ホクレア


<< ありがとう〈ホクレア号〉〜その3 〈カマヘレ〉からの帰還! >>