鞆の浦〜その2

福山市内からおよそ15キロ。カーナビの指示に従ってひとつ峠を越えると、工場や商店の看板には「鞆」の文字が目立ってきた。と思う間もなく右手には観光案内所が現れ、その左手前には福山市営と思われる駐車場が見えた。裁判になるくらいに道の狭い集落だと言うのだから、このあたりでクルマを置いて歩いた方がいいだろう。カーナビによると、鞆港までは歩いてほんの1キロほどだった。

日曜日で、ちょうど観光バスが続々と到着する時間帯。この静かな海辺には不釣り合いなくらい大勢の観光客で溢れ始めた。もちろん、僕もその観光客の中のひとりだ。初老を迎えたご夫婦、というおもむきの人たちが多い。彼らと一緒に行けば道に迷うこともないはず、と思いながら歩くうちに、間もなく道は港に突き当たり、対岸にはあのおなじみの常夜灯が見えた。



僕が女の子だったら、「きゃぁ、何ここ、カワイイ!」と叫んでしまいそうな風景だった。思っていたよりも、はるかにはるかに小さな港。常夜灯はもちろん、船着き場に下りる階段(これが雁木というものだな)、築200年は経っているであろう建物などなど、一つのコンセプトのもとに丁寧に作られたテーマパークのような印象だ。背後には山が迫る細い道。たしかにポニョに出てきた風景だ。
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しかし、もちろんここはテーマパークではない。港では今でも現役の漁師さんが働いているし、路地の多い風情のある町並みでは今でも人々が暮らしている。そのような「生活の場」が観光地にされてしまうと、いろいろ不都合も起きるんだろうなぁ、と思う。何たって、自分の家の前の路地を絶えず観光客の列が続いていることを想像してごらんよ。しかも今どきの観光客は、たいていカメラを持っている。こちらに向かってカメラを向けることもある。
なんて話は白川郷が世界遺産になった時にさんざん議論されていましたね。つまりは観光する側のマナーによって解決できる問題なんだけど。

海沿いの「幹線道路」を隣の集落まで歩いてみた。たしかに狭いです。途中、何カ所か信号機があるんだけど、これは工事中の片側通行と同じで、信号によって一方通行を切り替えている。これじゃあ遠くに住む人がうっかりクルマで来てしまうと、簡単に渋滞してしまう。緊急車両は困るはずだ。もともと船でやって来る人しかいなかったんだから、道の用意ができていないのは当然なのだ。だから皆さん、緊急の用事以外の時は、鞆の浦にはクルマで入らないようにしましょう。いっそのこと、地元の人以外は船でしか入れないようにしたらどうなんだろう。ここが島だと思えばいいのだ。

集落の中には架橋工事賛成派と思われるご家庭の黄色い旗が目立った。一方、常夜灯の下では、架橋工事反対の署名を求められた。しかし、今日初めてここにやって来たような観光客が、時間をかけて行われてきた論争に署名する立場には無いんじゃないだろうか、と思って遠慮した。まだまだワタシは勉強が足らんわけです。心情的にはこれほど歴史のある港の半分を埋め立てて、その上に味も素っ気もない橋が架かるなんて心の痛む話だ。しかし、鞆の浦とは直接縁のない関東で暮らす僕としては、ここで毎日暮らしている人たちの出す結論に従うべきなのだろう。いずれにしても、このような美しい港が、数百年の昔から今日まで大切にされてきたことに感謝しなくてはいけない。

ところで、僕はこれまで地方の観光地には取材で行くことがほとんどだった。だからいざ「観光しなさい」と言われてもどうしていいかわからないのだ。そして結局は、商店のご主人にインタビューしてたり、資料館を探して調べ物をしてしたり、「熱心な観光」をしてしまう。
でもねぇ、これほど風光明媚な海。瀬戸内の聖地。できれば歩き回ってばかりいないで、同じ部屋に数日滞在して、朝から晩まで日の光と共に変化する海のようすを眺めながら、時には地元のお酒でも飲みながら、しみじみしてみたいものだと思った。そして、その向こうに美しい打瀬船でも現れてくれたら、もうそれ以上の「観光」なんて望まないんだけど。
by west2723 | 2009-12-04 08:44 | 陸での話


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