八幡暁さんというシーカヤッカーが、八丈島から鎌倉までの単独漕破に成功したという。この人はすでにオーストラリアから日本までの航海も成功させており、あのUddah番長も、敬意を込めて「シーカヤック界のプリンス」と呼んでいるほどの人物だ。まったくの単独行。伴走艇も撮影隊も同行していない。だから写真も少ない。そんなツワモノでさえ、八丈〜鎌倉間の航海には充分な準備を積んだ。八丈島に住んで、八丈島の漁師たちを尊敬し、尊敬され、満を持して八丈島を漕ぎ出したという。
という話を聞いていると、思い出すのは我らがDukeさんの《Ocean Legend》だ。今はクルーを集めるのに苦労している。カヤックは一人だったのに何故できないの? と思う人がいるかもしれないけれど、いかに屈強なDukeさんとは言え、伴走艇やサポートクルーの協力無しには成功しない。なぜなら、今のアウトリガーカヌーは競技用に開発された乗り物であり、決して「旅の道具」ではないからだ。シーカヤックには150kgもの荷物を積めるという。言わば海に浮かぶ大きなバッグパックだ。遠征の場合には海水濾過装置まで積むという。 一方のアウトリガーカヌーは、あのモロカイ・ホエでさえ全行程は60km。「旅」ではなく「競技」の距離なのだ。ましてOC-1となると満足に水さえ積むことができない。しかも競技用に軽さを追求しているので、少し岩に乗り上げるだけで簡単に壊れてしまう。しかしこれは「どちらの道具が優れているか」というような話ではなく、「使う道具が違う」というタイプの話だ。F-1がラリーを走れないように、ロードバイクが砂漠を走れないように、今あるようなアウトリガーカヌーで、これほどの海を渡ることは「何かが違う」んじゃないか、と思う。 ということで、《Ocean Legend》をやるんだったら、安全に海を渡るためのアウトリガーカヌーが必要なのではないかと思い始めている。旅するOC-1、あるいはOC-6だ。本気でカヌーを愛するのであれば、そういう道筋で《Ocean Legend》を考えてもいいんじゃないか? 開発にはメーカーの協力も欠かせないし、おカネも時間もかかるだろう。でも、たとえ遠回りであっても、その方が本来の《Ocean Legend》の趣旨に合うのではないだろうか? たとえF-1でサハラ砂漠を横断しても、そんな行為は人々の明るい未来に向けて何の貢献もしない。ただの「変わり者」と言われておしまいだ。しかしこのプロジェクトを通じて「旅するカヌー」が生まれたら、Dukeさんの行動は文字通り伝説になる。何たって、日本人の海との関わりの中に、新たなカヌーを残すことになるのだから。 そんなこんなで、クルー集めに奔走するDukeさんを横目で見ながら、《Ocean Legend》にはもっと時間をかけるべきじゃないかと思い始めている。まずはこのプロジェクトに向けて立ち上がっただけでも立派なものなんだから、延期はDukeさんにとって挫折でもなんでもない。実行に移す上で、新たに大きな課題が見えて来たというだけのことだ。だったらその課題を解決するまで拙速は避け、より完全な、誰もが納得できるカタチで実行すればいいんじゃないかと思う。どんなもんでしょう?
by west2723
| 2009-07-27 20:06
| 海での話
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